水源の森を守るということ:地域で森の手入れを続ける人々の想い
水源の森が果たす役割
私たちが日頃使っている水は、多くの場合、山間部の森から生まれています。こうした森は「水源林」と呼ばれ、雨水を蓄え、ゆっくりと地中や地下水として流し出すフィルターのような役割を果たしています。森の豊かな土壌や木々の根が水を浄化し、量も安定させるため、私たちが蛇口をひねればいつでもきれいな水が使えるのは、この水源林のおかげと言っても過言ではありません。
しかし、現在、日本の水源林はその保全に課題を抱えています。林業の衰退や人口減少により、これまで行われてきた森の手入れ(間伐や下草刈りなど)が行き届かなくなっている地域が増えているのです。手入れ不足の森は、木が密集しすぎて光が入らず、下草が生えないため、雨水が土壌に浸透しにくくなり、保水力が低下してしまいます。これは、私たちが使う水の質や量にも影響を与える可能性がある、私たち自身の生活にとって身近な問題です。
地域住民による水源林保全活動の現場から
こうした状況に対し、全国各地で地域住民が主体となった水源林保全活動が行われています。今回は、ある山間部地域で活動されている「ふるさとの森づくり会」の皆さんの取り組みをご紹介しましょう。
「ふるさとの森づくり会」は、数十年前から地域の水源となっている裏山の森の手入れを続けているボランティア団体です。メンバーは地元の農家さん、元会社員の方、移住者の方など、幅広い年齢層の方々が参加しています。
活動内容は、主に不要な木を伐採する「間伐(かんばつ)」や、地面に光を当てるための「下草刈り」です。これらの作業は重労働であり、特に夏場は暑さとの戦いになります。しかし、メンバーの皆さんは月に数回、汗を流しながら森と向き合っています。
会のリーダーである佐藤さんは、活動を始めたきっかけについてこう語ります。「昔はみんなで山に入って、薪にしたり、家を建てるために木を切ったり、自然と森を手入れしていたんです。でも、生活が変わって山に入る人が減ってしまって。このままでは荒れてしまう、子どもや孫の世代にきれいな水を残せない、という危機感がありました。」
森の手入れから生まれるもの
活動の成果は、徐々に森の姿に現れています。間伐によって森の中に光が差し込むようになり、多様な下草が生えるようになりました。これにより、土壌が豊かになり、雨水をより多く蓄えられるようになっています。「最初はどうなるかと思ったけれど、手を入れると森が応えてくれるというか、どんどん明るく、生き生きしてくるのがわかるんです」と佐藤さんは笑顔で話します。
また、この活動は森の手入れだけでなく、地域住民のつながりを深める場にもなっています。共同作業を通じて、年齢や立場を超えた交流が生まれ、地域の絆が再認識されています。「一人では大変な作業も、みんなでやれば乗り越えられる。森を守る仲間がいることが心強いですね」とメンバーの一人は話していました。
もちろん、活動には苦労も伴います。高齢化による担い手不足や、若い世代への技術継承などが課題です。しかし、メンバーの皆さんは、体験会を開催したり、地域の小中学校と連携して子どもたちが森に入る機会を作ったりと、様々な工夫をしながら活動を続けています。
私たちにできること
「ふるさとの森づくり会」のような活動は、全国各地に存在します。こうした地域での地道な活動が、私たちの日常を支える「きれいな水」を守っているのです。
水源林の保全は、専門家や特定の団体だけが行うものではありません。私たち一人ひとりが水源について関心を持つこと、そして地域で活動されている方々の声に耳を傾けることが、最初の一歩となります。もし、お住まいの地域や関心のある地域で水源保全の活動が行われているようであれば、情報を集めてみる、あるいはボランティアとして参加してみることも、素晴らしい貢献になるでしょう。
水源の森を守る活動は、すぐに目に見える成果が出ないこともあります。しかし、そこには未来へきれいな水を繋ぎたいという強い想いがあり、その想いが地域の森と人々の心に豊かな恵みをもたらしているのです。