水源を守る「見える化」されたお金の流れ:税金や基金で変わる地域と人々の活動
水源地保護を支える「お金」の役割
私たちの暮らしに欠かせない「水」。この水を育む水源地の森や自然環境を守る活動は、多くの人々の努力によって支えられています。水源地保護と聞くと、森の手入れをする人や、調査を行う専門家、啓発活動に取り組むボランティアなどを思い浮かべるかもしれません。では、これらの活動は、どのような資金によって可能になっているのでしょうか。
水源地保護には、長期にわたる継続的な取り組みが必要です。そのため、安定した活動資金の確保は非常に重要な課題となります。国や自治体の予算、企業のCSR活動、個人の寄付など、様々な形で資金が集められていますが、近年、地域によっては独自のユニークな資金調達の仕組みが生まれています。今回は、そうした「見える化」されたお金の流れ、特に地域独自の税金や基金といった仕組みが、水源地保護の現場でどのように活かされているのか、そしてそれに関わる人々の声に耳を傾けてみたいと思います。
地域で生まれる水源を守るお金の仕組み
水源地保護の活動は、森林整備、水質調査、外来種対策、環境教育、獣害対策など、多岐にわたります。これらの活動には、人件費、資材費、調査機器の費用、施設の維持管理費など、様々なコストがかかります。
従来の行政予算に加え、地域独自の資金調達として注目されているのが、「水源税」や「水源保全基金」といった仕組みです。例えば、特定の自治体が条例に基づいて住民や企業から徴収する法定外目的税として「水源環境保全税」を導入したり、寄付や企業からの出資などを基に「水源保全のための基金」を設立したりするケースがあります。
これらの仕組みの特徴は、集められた資金の使い道が「水源環境の保全・再生」という特定の目的に限定されていることです。これにより、税金や寄付をした人々は、「自分のお金がどのように水源を守る活動に使われているのか」を比較的明確に把握することができます。この「見える化」が、市民や企業の理解と協力を深め、継続的な活動を支える力となっています。
では、こうした資金は具体的にどのような活動に使われ、現場の人々はどのように感じているのでしょうか。
お金が活動に「活きる」現場の声
ある水源保全税を導入している県の事例を見てみましょう。この税によって集められた資金は、荒廃した人工林の間伐や広葉樹への転換といった森林整備、土砂崩れ防止のための治山事業、水源域での鳥獣対策、河川や地下水の水質・水量モニタリング、そして地域住民や子どもたちへの環境教育などに幅広く活用されています。
森林整備に関わる人々の声
長年、水源地の森で間伐作業を行ってきた林業家のAさんは、水源税による資金についてこのように語っています。「以前は、間伐が必要だと分かっていても、資金や人手不足でなかなか進まない場所が多くありました。水源税のおかげで、計画的に森の手入れができるようになり、若い世代の研修も受け入れやすくなりました。手入れされた森は、太陽の光が地面まで届き、下草が生え、水持ちの良い健康な森になっていきます。自分たちの仕事が、水を守る直接的な活動につながっていることを実感できますし、それが次の世代にも引き継がれていくと思うと、やりがいを感じます。」
環境教育に取り組むNPOスタッフの声
水源地域で子どもたち向けの環境教育プログラムを実施しているNPOのBさんは、水源保全基金からの助成を受けています。「基金からの支援は、私たちの活動の幅を大きく広げてくれました。例えば、これまで実施できなかった遠隔地の学校への出前授業が可能になったり、子どもたちが実際に森や川に入って学べる体験プログラムに必要な装備を揃えたりすることができました。子どもたちが水源地の自然に触れ、『この大切な水を守りたい』と感じてくれる瞬間に立ち会えるのは、この活動の最大の喜びです。資金の支援があることで、こうした貴重な学びの機会をより多くの子どもたちに提供できるようになりました。」
仕組みを運営する自治体担当者の声
水源税の運用に関わる自治体の担当者Cさんは、仕組みの意義についてこう述べています。「水源税は、県民の皆様のご理解とご協力があって成り立つものです。集められた資金が、具体的にどのような事業に使われ、どのような成果が出ているのかを『見える化』し、丁寧に情報提供することを心がけています。税金という形で水源保護に参加していただくことで、多くの県民の皆様が水源環境に関心を持ち、自分たちの水がどこから来て、どのように守られているのかを考えるきっかけになっていると感じています。これは、単に資金を集める以上の大きな成果だと捉えています。」
これらの声からは、水源税や基金といった仕組みが、単に資金を提供するだけでなく、活動に関わる人々のモチベーションを高め、地域全体の水源環境への意識を高める効果も持っていることが分かります。お金の流れが「見える化」されることで、活動の意義がより明確になり、参加者の納得感や共感が深まるのです。
水源保護と私たち
水源地を守る活動は、特定の誰かだけが行うものではなく、私たちの暮らしを支える水を守るための、社会全体の取り組みと言えます。地域独自の水源税や基金は、そうした社会全体の取り組みを、資金という形で「見える化」し、支える仕組みの一つです。
私たちが納める税金や、個人・企業からの寄付は、水源地の森を育て、川をきれいに保ち、次の世代に大切な水を伝えるための具体的な活動に使われています。自分の住む地域や、自分が使う水に関わる水源地では、どのような資金調達の仕組みがあり、どのような活動が行われているのか、少し調べてみるのも良いかもしれません。水源地保護に目を向け、活動に関心を持つことも、私たちが水を守るための一歩につながるでしょう。